▍エグゼクティブサマリー
AnthropicのテクニカルスタッフでありClaude Codeの開発者であるBoris氏が、「Claude Codeを使い倒すための実践Tips」に絞って解説したセッション。 理論や歴史ではなく、具体的なプロンプト・コマンド・ワークフローを提示している点が特徴。 キーメッセージは次の3点。
- Claude Codeはエージェント型 — 行単位の補完ではなく、機能・関数・ファイル単位で構築する想定。
- あなたのワークフローを変える必要はない — 既存のIDE / ターミナル / SSH / Tmux に乗る。
- 「賢く使う」は次の4ステップで身につく — Q&Aから始める → コード編集 → ツール連携 → コンテキストを与える。
01Claude Codeとは
- 新世代のAIアシスタント。従来のコード補完(数行単位)とは方向性が異なる。
- フルエージェント型:「機能を作る」「関数全体を書く」「ファイル全体を書く」「バグ全体を直す」ことを想定。
- あらゆるIDE・ターミナルで動く:VS Code / Xcode / JetBrains / Vim / Emacs / Zed 何でも可。リモートSSH、Tmux環境でもOK。
- 汎用ツールであるがゆえに、初心者が「何を打てばいいのか」迷いやすい。 → 後述のQ&Aから入るのが正解。
02初期セットアップで必ずやるべきこと
| コマンド | 効果 |
|---|---|
/terminal-setup | Shift+Enterで改行可能に(バックスラッシュ不要) |
/theme | ライト / ダーク / 色覚多様性対応テーマを切り替え |
/install-github-app | GitHub Issue / PR上で @claude メンション可能に |
| allowed tools のカスタマイズ | 毎回プロンプトされるツールを事前許可 |
「もう一人のエンジニアに喋りかけるように指示できる」。長文タイプの手間が大幅減。
03最初の一歩は「コードベースQ&A」
Anthropic では新人技術者の初日のオンボーディングに Claude Code を使う。 「Claude Codeをインストール → コードベースに質問する」を即座に行わせるだけで、これまで 2〜3週間かかっていた立ち上がりが2〜3日に短縮。
ここがポイント — ローカル完結
- インデックス化なし:リモートDBにコードを送らない。
- コードはローカルに留まる。生成モデルの学習にも使わない。
- セットアップ待ちなし。インストールしたら即時利用可能。
すぐ使える質問パターン
- 「この関数はどこで使われている?」「このクラスはどうインスタンス化する?」 → 単純grepではなく、実例を辿って深い回答。
- 「なぜこの関数は引数が15個もあるの?」 → Git履歴を遡って引数追加の経緯や紐づくIssueを要約。
- 「GitHub Issue #xxx の文脈は?」 →
web fetchでIssue本文を取得。 - 毎週月曜のスタンドアップ用に「今週自分が出荷したもの一覧」をgit logから生成。
04コード編集に進む(プランニングとイテレーション)
Claude Codeに与えているツールは意外にも少ない — ファイル編集 / Bash実行 / ファイル検索の基本3種類。これをモデル側が組み合わせて「探索→ブレスト→編集」をこなす。
大規模な変更は「考えさせてから書かせる」
プランモードを使わなくても、この一文で挙動が変わる。
魔法の呪文:commit, push, PR
「commit, push, PR」と言うだけで、Claudeは git logを読みてプロジェクトのコミットメッセージ規約を学習し、ブランチを切り、コミットしてプッシュし、GitHubでPRを作るところまで実行。
イテレーションを回す仕組みを与える
Claudeに「自分の成果物をチェックする手段」を渡すと、品質が劇的に向上する。
- ユニットテスト・統合テスト
- Puppeteerでのスクリーンショット
- iOSシミュレータのスクリーンショット
これらを与えると、Claudeは結果を見て2〜3回自走でイテレーションし、ほぼ完璧に近づける。
05自分のチームのツールを繋ぐ(Bash / MCP)
Claude Codeに与えられるツールは大きく2種類。
① BashツールとしてのCLI
「barley という独自CLIを使って〇〇して」と伝え、--helpで使い方を読ませる。よく使うものは CLAUDE.md に書いてセッション横断で記憶させる。
② MCP(Model Context Protocol)サーバー
MCPツールを登録すれば、外部システムとも統合可能。「新規コードベースに入るとき、チームがすでに使っているツールをすべて渡すと、Claudeが代理で操作してくれる」。
06コンテキストを与える(CLAUDE.md / スラッシュコマンド)
エンジニアが頭の中に持っている「システムの背景」「歴史的経緯」を Claude にも渡せば渡すほど、判断が賢くなる。
CLAUDE.md の置き場所と役割
| 場所 | 共有範囲 | 用途 |
|---|---|---|
プロジェクトルートの CLAUDE.md | チームでGit共有 | 毎セッション自動読込 |
ローカル CLAUDE.mdnon-checked-in | 個人専用 | 個人の好み・秘密情報 |
サブディレクトリの CLAUDE.md | 該当ディレクトリ作業時のみ | オンデマンド読込 |
| Enterprise配置 | 全社共通 | 会社全体の規約 |
CLAUDE.mdに書くべき内容
- よく使うBashコマンド
- よく使うMCPツール
- アーキテクチャの意思決定
- 重要ファイルへのポインタ
- スタイルガイド
その他のコンテキスト投入手段
.claude/commands/配下のスラッシュコマンド(ホームディレクトリにもプロジェクトにも置ける)。 Anthropic自身、GitHub IssueへのラベリングをGitHub Actions経由のスラッシュコマンドで自動化。- @メンションでファイル / ディレクトリをコンテキストに引き込む。
07階層的な設定(プロジェクト / グローバル / Enterprise)
スラッシュコマンド・権限・MCPサーバー設定など、ほぼすべてが3階層で管理可能。
| レイヤー | 適用範囲 | 典型用途 |
|---|---|---|
| Project | Gitリポジトリ単位 | チーム共有 / 個人用 |
| Global | そのユーザーの全プロジェクト | 個人共通設定 |
| Enterprise Policy | 組織全員 | 強制的なポリシー |
権限の許可・ブロック例
- 全社員が使う特定の
testコマンドを Enterprise Policy で自動承認。 - 「絶対に取得してはいけないURL」を Enterprise Policy に書いてブロック。ユーザーは上書き不可。
迷ったらここから始める
メモリ管理の便利機能
/memory:読み込まれている全メモリファイルを可視化/編集- # キーで「これを覚えて」と指示すると、保存先メモリを選んで書き込み
実例:Anthropic apps リポジトリ
Web / アプリのコードベースに Puppeteer MCPサーバーを共有設定として組み込み済み。新メンバーは設定不要で、Claudeに e2eテスト自動化やスクショイテレーションを任せられる。
08知って得するキーバインド一覧
| キー | 効果 | 使いどころ |
|---|---|---|
| Shift+Tab | Auto-Accept Editsモードへ切替 | テスト書き換えのループなど、間違いなく正しい方向のとき |
| # | 「これを覚えて」 → CLAUDE.mdに自動追記 | ツールの使い方をミスっていた時、訂正をその場で記憶 |
| ! | Bashモードに切替。出力はコンテキストに残る | 長時間コマンドや「Claudeにも見せたい実行結果」 |
| @ | ファイル / フォルダをメンション | 狙い撃ちでコンテキスト追加 |
| Esc | Claudeの動作を安全に中断 | 軌道修正したい瞬間。セッションは壊れない |
| EscEsc | 履歴を遡る | 過去の発言まで戻ってやり直し |
| Ctrl+R | 展開表示(Claudeのコンテキストそのまま) | 「Claudeが何を見ているか」確認 |
claude --resume / --continue | 過去セッションを再開 | 長期プロジェクトの継続作業 |
09Claude Code SDK(claude -p)
claude -p で起動する非対話モードがそのままSDK。Claude Code自身もこれを使って動いている。
claude -p "プロンプト文" \
--allowedTools "Bash,Read,Edit" \
--output-format json # or streaming-json
使われている場面
- CI(継続的インテグレーション)
- インシデント対応
- 各種パイプライン
git status や sentry CLI、GCPバケットの巨大ログをパイプで流し込み、Claudeに「面白い点を探して」と頼める。
10パワーユーザーの並列ワークフロー
Boris氏自身は「Claude normie(普通のユーザー)」だが、社内外のパワーユーザーは次のような使い方をしている。
- SSH + Tmuxトンネルで複数Claudeセッションを並行運用
- 同じリポを複数チェックアウトし、リポごとに別Claudeを走らせる
- Git worktreeで作業を分離しつつ並列化
「同時起動セッション数に制限はない。並列で進められる作業はかなりある」。Anthropicとしてもこの体験を改善中。
11Q&A セッション
Q1. 実装で一番難しかった部分は?
「Bashコマンドを安全に実行する仕組み」。Bashは本質的に危険でシステム状態を予期せず変える可能性がある。一方、毎回手動承認させると生産性が出ない。 落とし所として、
- 読み取り専用コマンドの判別
- 静的解析で「組み合わせても安全か」を判定
- 許可リスト・ブロックリストを階層的(プロジェクト / グローバル / Enterprise)に適用
を組み合わせた、複雑な階層化権限システムに到達した。
Q2. マルチモーダル対応は?
Claude Codeは初期からフルマルチモーダル。ターミナルなので気付きにくいが、以下すべて可能:
- 画像のドラッグ&ドロップ
- ファイルパスを渡す
- クリップボードからコピペ
モックをドラッグ&ドロップ → Puppeteer MCPで実装&スクショ確認、までフル自動化が可能。
Q3. なぜIDEではなくCLIを作ったのか?
- Anthropic社内でも使うIDEがバラバラ(VS Code, Zed, Xcode, Vim, Emacs…)。全員に届く最大公約数がターミナルだった。
- モデルの進化速度を間近で見ている身として、「今年末には人々がIDEを使わなくなっている可能性すらある」。UIに過剰投資するのは将来的に無駄になりかねない。
Q4. 機械学習・モデリングでも使える?
使える。Anthropic技術職の約80%が日常利用。研究者も Notebook ツールでJupyterノートブックの編集・実行に使っている。
★押さえておくべき要点(テイクアウェイ)
- 最初の使い道はコードベースQ&A。新人オンボーディングが2〜3週間→2〜3日に。
- コードはローカル完結。インデックス化・アップロード・モデル学習なし。
- 大きな実装は「プラン→承認→実装」を一文で指示するだけで品質が上がる。
- イテレーションの「見える化手段」(テスト/スクショ)をClaudeに渡せばクオリティが化ける。
- CLAUDE.mdは短く、階層的に。プロジェクト/個人/Enterpriseで使い分け。
- Shift+Tab / # / ! / @ / Esc / Ctrl+R は今すぐ覚える。
claude -pは「超知性Unixユーティリティ」。CI/インシデント/パイプラインに組み込める。- 並列運用(Tmux / 複数チェックアウト / Git worktree)でスケールする。
- Bash安全実行はClaude Codeの最難所。プロダクトの信頼性を支えている。
- フルマルチモーダル。モック画像→実装→Puppeteer検証まで一気通貫。
- CLIを選んだ理由=最大公約数+将来のIDE脱却を見据えた賭け。